日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

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35大会

 

音響実態にみる能のリズム技法 -謡と囃子の「息扱い」について-

坂東愛子(能楽観世流シテ方、能楽協会会員 →プロフィール

リズムの緩急を醍醐味とする能の音楽は、謡と囃子(笛・小鼓・大鼓・太鼓)より構成され、歌舞劇として進行する上で、演者による「息扱い」と呼ばれる伝統的な音楽技法が重要な役割を担っている。とりわけ、能の八拍子を一単位とする「平ノリ」のリズム形式の部分には、声楽(謡)と打楽器(小鼓・大鼓)との関係から複雑な緩急が生じる。
しかしこれまで、「平ノリ」の謡にみられるリズム技法については、理論上のリズムの構造面が重要視され、実際の音響を捉えた実践の研究が立ち遅れてきた。そのため、能の上演を対象とする音楽実態を詳しく検討した事例がみられず、伝統的な音楽技法の変化を把握する基準や研究手法も未だ確立していない状況にある。この問題に対して発表者は、謡の詩形とリズムの関係を基準に類型的に活用する傾向を捉え、実践に適応した独自の研究手法から実証的な調査を行ってきた。その結果、実践で生じる「平ノリ」地拍子の流動的な運用性には、拍を決定づける上で、重要な声楽(謡)と打楽器(小鼓・大鼓)の関係性が高く、両者の間にはリズム技法による連動性が生じていることを明らかにした。
本発表では、はじめに従来の「平ノリ」地拍子理論について触れ、新たに実践で適応する発表者独自の分析法を提示する。この実証的な音源分析より、1980年代以降の運用実態を中心に、シテ方5流派の運用傾向や曲趣別にリズム変化の特徴を紹介する。加えて、観世流派内の一事例として、能〈高砂〉ロンギ部分の音響を対象に測定分析を行い、拍の伸縮性やリズム変化が生じる際、謡と囃子(小鼓・大鼓)の「息扱い」がどのように連動しているのか、詳しく検討していく。さらに、これらの裏付けとしてシテ方観世流の所謂人間国宝である梅若玄祥氏への聞き取り調査の内容を取り上げ、演者側の視点にも注目し考察を進める。