日本リズム学会 

Japan Institute of Rhythm

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35大会

 

伝送される音楽ファイルフォーマット 

──日本でのMODの受容と「ネット文化」──

日高良祐(首都大学東京 →プロフィール

定額制音楽配信サービスの投入によるデジタル音楽市場の急速な拡大に見られるように、2010年代の音楽受容は「所有」から「参照」するものへ変化しつつあるとされている。しかし、そこで実際に用いられるデジタルメディア技術の変遷にひとたび目を向けてみると、レコード産業が主導する「参照/アクセス」への市場再編が進行していく一方で、ユーザー主体による同様の試みがそれ以前から蓄積してきたことに気付かされる。それが、音楽ファイルフォーマットを用いた「伝送」の実践である。
聴覚文化論の牽引者であるジョナサン・スターンは『MP3: The Meaning of a Format』(2012)において、デジタルメディアを対象とした社会学的考察を行なうためにメディア技術のフォーマットに着目する「フォーマット理論」の枠組みを提示した。メディアが徹底的に相互参照し合いながら日常生活を構成している現在、メディア技術が内包するフォーマット間の差異と共通性に注意を向けた分析は有効となる。とくに、コーディングされたフォーマット上の決定項がメディアの機能それ自体を決定してしまうデジタルメディアの分析においては、そのフォーマットが策定される過程を明らかにすることが求められるのである。
そこで本発表では、日本でデジタル音楽流通の制度化が急速に進められた1990年代に着目し、そこでの音楽ファイルの伝送実践について「MOD」と呼ばれるフォーマットの事例を中心に取り上げて考察する。産業的編成による制度化の中で行なわれたユーザー主導の音楽ファイル技術受容は、インターネット接続の導入とともに醸成された「ネット文化」のイデオロギーと深く結びついていた。本発表では、「ネット文化」の熱狂者たちによるMODの伝送実践を明らかにすることで、今日的な「参照/アクセス」の音楽実践が形成されてきた過程を再考する。